
録音制作は午後3時から始まった。Kura君(以下K君)とMichicoちゃん(以下Mちゃん)との再会の挨拶は3年ぶりの再会なのに、お互い日常的に会ってきた者同士のような実にあっさりとしたもの。旧知の仲ってそんなもんだ。そして彼らと僕はいきなり本題に入っていった。
歌詞のテーマを決めるために、Mちゃんが僕に「ORITO(以下O)さんにこの数年間に起こった、人生や世の中についての心境や価値観の変化を教えてよ。それをJ-R&Bの先駆者OさんとGSPからのエヴァー・グリーンなメッセージとしてこの曲に託して、今の若いリスナーたちとシンガーたちに贈りたいから。」と質問してきた。僕は内心「やっぱり、そう来たか。この曲はスウィートなラヴ・ソングでは済まされないだろうなとは、思ってた。」と思い、僕の今の偽らざる心境を包み隠さずK君とMちゃんに話した。
「俺も俺なりに若い頃は音楽の世界で、メンフィスでの録音とか他にも様々な特殊な出来事を体験してきた。それを体験して、平々凡々たる人生では味わえない苦労や感動や栄光も味わった。若い頃は、自分が音楽を通じてそういう体験を重ねたいと強く望んでもいたし、自分にはそういう特別な才能や運があるんだと思い上がってもいたしね。この世界に憧れて足を踏み入れてくる人って、みんなそうでしょ?
でも今の俺はね。やっぱ“普通が一番だ”と心から思うのよ。俺の半生を振り返るとね。一番感動的で嬉しかったのは娘が生まれた時だったし、一番祝福されたのはカミサンとの結婚式だったし、一番気持ちよかったのはセックスだし、一番大変だったのはお金のやり繰りだしね。この先の人生で、一番楽しみなのは娘の成長だし、一番辛いことと思われるのは妻や親兄弟との別れのはずだ。これらのことって結局、誰もが体験する平凡なことだ。
いやいや、俺には歌という特別なモノがある!と自分勝手に思い込んでみたってさ。考えてみれば、歌なんて誰だって口ずさむものじゃんか。結局俺にとっては、最高の事って特別な事の中にではなくて、実は平凡なありふれた事の中にこそあったんだよ。俺は自分が特別でありたいと思ってきたけど、やっぱり自分も平凡な人間だったと、3年くらい前から気付き始めたんだよ。そして、そういう自分自身の平凡さに幻滅するどころか、むしろ安心を覚えたんだよ。結局俺のこれまでの人生なんて、“普通が一番・平凡こそ最高”ということを心底思い知る為に、あえてその正反対の特殊な音楽の世界でドタバタを演じてきた、ということだった。俺はこのことに気付くことができて、今は幸せだ。」
「なんかそれ、すっごくわかるなあ。それでOさんが、そういう心境になるためのきっかけって、やっぱり…?」とMちゃん。K君も傍らで僕の話しを聴いている。「カミサンとの結婚生活と娘の誕生だ。ありきたりの話の展開で申し訳ないけど。」と僕。「そんなことないよ。あたしたちも、そういうことをこの曲で伝えたかったんだと思う。決まりね。この曲のテーマは、これでいこう。」と、K君とMちゃんは早速スタジオワークを始めた。
それからの制作作業のことは、あまり憶えていない。僕ら3人は、本人たちにも信じられないくらいのスピードで、作詞・作曲から、歌とコーラスの収録から、テイクの編集にいたるまで全ての仕事を、ごちゃ混ぜの進行手順で仕上げていった。その間にも、友人同士としての談笑やら近況についての愚痴のこぼし合いやら、弁当タイムやらも併せて。その間、K君やMちゃんが「こういうナチュラルな時間の流れのレコーディングが、ずっとやりたかった。こういう大人同士の制作作業と曲がやりたかったんだよね。ソウルだねえ。これぞSOULだよねえ。」という言葉を嬉しそうな顔で何度か発しているのを、僕は聴いた。
気がついたらスタジオ入りから8時間後の夜11時には、このLife Time Storyという曲は出来上がっていた。早いのなんのって…!。
今しがた産声を上げたこの曲を聴く僕ら3人は、静かな感動と歓びに包まれた。僕ら3人は「この曲は傑作だよ。それにすっごく楽しかったね。だけどあんまり早く出来上がっちゃって、なんか寂しい気もするね。また一緒に何か作ろうよ。そう遠くない未来に必ず。」と語りあった。
このLife Time Storyと、この曲を手始めとする今後の僕ら3人のコラボに期待して









